マルホランド・ドライブ
Mulholand Dr. 2001年 仏・米 デヴィッド・リンチ監督
テレビドラマ風の冒頭から引き込まれる。
★★★★★
記憶となって残っているこの映画の質感に、何か言葉をあてようと試みるとき、浮かんでくる語彙はといえば、どうしても「粘稠」といった類のもの。
贅肉のような象徴的解釈を誘発する、監督の思わせぶりな手つきのせいかもしれないし、官能的というには直截なベッドシーンがあるせいなのかもしれない。
個人的に、ドロドロとした「ワールド」性よりも、オーソドックスともいっていい、サブ・プロットの数々に力を感じる。ナイスな風貌の映画監督アダムの、製作者や妻との攻防(クールに駄々っぽいのがとてもいい)。リタと読み合わせた台本が、大化けに化けるオーディション・シーン(※)。
職務質問や何かのリストといったキーワードが出てきて、何か巨大な陰謀の存在を匂わすけれども……。不意を衝いた場面転換。後半は怒涛。
あのかわいらしくて行動力あふれるベティの姿はここにはない。翻弄され、突き放され、苦痛に顔をゆがめ、憎悪に燃えるダイアン。人間が一生のあいだに見せる、ありとあらゆる感情を見せられた気がする。ひとりの女優(の卵)が存在し-たということ。
死人が語る点では『サンセット大通り』も同じ。けれど、ワイルダーの(自己)諧謔めいた筆致は、女優を悲劇とコメディーの間で踊らしめるにいたる。私たちは、ノーマ・デズモンドを眺めて哀れむことができよう。けれど、『マルホランド・ドライブ』は悲劇である以上に「夢」。ここに、観客の超越的な専断の余地は存在しない。
※このシーンの空気感が好き。知性というか辛辣な審美眼を感じさせるニッキー。漫ろで鈍いディレクションのボブ(演じているWaye Graceという俳優は器量を感じる)。いままで何人もの女をイカせてきたんだろうなと思わせるオールド・タイマー、ウディ。いささか典型的に描かれている、「うんざりさせる」ような人たちと、驚きを共有することになる。
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